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【第1回】 蒼(あおい)君との思い出

毎月20日
愛おしい子どもたち

第1回 蒼(あおい)君との思い出

蒼君は、とても優しい男の子でした。

私が蒼君と出会ったのは、小学校の高学年の頃です。

学校に来ることが難しく、授業にもついていけなくなっていたあおい君は、少人数で個別に支援を受けられる私のクラスにやってきました。

優しくて、少し臆病で、人との関わりに傷ついた経験をもった子でした。

朝、一人では学校に来られない蒼君を、私はよく家まで迎えに行きました。

迎えに行けば必ず来れる、というわけではありません。

玄関から出て来れる日もあれば、出て来られない日もありました。

私のクラスは8人ほどの小さなクラスでした。

蒼君は、黒が好きでした。

服もマスクも黒。

写真を撮られることは大嫌いでした。

そして、集団の中に入ることが、とても苦手でした。

教室に入れない。

授業や楽しい行事にも参加できない。

みんなが活動している場所に、どうしても入っていけない。

雨の日や真夏の暑い日、雪の降る寒い日にも、校舎内に入れず、外に立っていることもありました。

そんな姿を見ると、私は胸が苦しくなりました。

「入りたくない」のではなく、

「入りたいけれど、入れない」こともある。

集団活動を拒むことは、単なるわがままでも、甘えでもない。

もちろん、すべてを「できなくてもいい」で終わらせればいいわけではありません。

蒼君自身が少しずつ頑張って、乗り越えていかなければならないこともあります。

どこまで待つのか。

どこで背中を押すのか。

何が本人のためなのか。

私は、迷いながらの学校生活でした。

6年生になり、修学旅行が近づいてきました。

普段の蒼君の様子から、修学旅行への参加は難しいかもしれないと、誰もが思っていました。

蒼君自身も、

「修学旅行には、僕は行かなくてもいいです」

と、何度も言っていました。

ただ、ときどき、

「遊園地には行ってみたい」

と言うことがありました。

私は、蒼君の中に少しでも「行ってみたい」という気持ちがあるのなら、その気持ちを大切にし、背中をおしたいと思っていました。

そんな蒼君との思い出の中で、今でも忘れられない朝があります。

修学旅行の当日の朝のことです。

学校の集合時間は朝7時。

でも、みんなが登校する時間と重なってしまうと、蒼君はまた動けなくなってしまうかもしれません。

私は前日に、

「先生、明日は5時50分に迎えに行くね」

と蒼君に伝えていました。

そして当日。

まだ外は薄暗く、肌寒い時間でした。

私は少し緊張しながら、蒼君の家へ向かいました。

今日は、出て来られるだろうか。

みんなと一緒に修学旅行に行けるだろうか。

そんなことを考えながら待っていると――

蒼君が、わりとすぐに家から出てきました。

そのときの驚きと感動を、今でも覚えています。

私たちは一緒に学校へ向かいました。

まだ薄暗かった空が、少しずつ明るくなっていきました。

「ねぇ蒼、今日はよく起きられたね!」

私がそう言うと、あおい君は、

「あの〜……僕、寝てません。」

二人で笑いました。

学校に着くと、友達や先生たちが蒼君を見つけて、嬉しそうに声をかけてくれました。

たくさんの人に声をかけられると、蒼君は恥ずかしそうに私の後ろに隠れたり、近くの物陰に隠れたりしていました。

でも、ちゃんとそこにいました。

みんなと一緒に、修学旅行へ出発する場所に立っていました。

そして蒼君は、その日、修学旅行へ出発しました。

あとから聞いた話では、それが蒼君にとって初めての旅行だったそうです。

あの朝のことを、私は今でも時々思い出します。

まだ暗いうちに迎えに行ったこと。

蒼君が家から出てきてくれたこと。

二人で学校へ向かううちに、少しずつ空が明るくなっていったこと。

そして、蒼君の笑顔。

あの朝、家から出てきた蒼君の姿を、私はずっと忘れないと思います。

二人で歩いているイラスト

WRITER

このコラムを書いた人

小さな居場所 まるみいず

小さな居場所まるみいずを運営する薄井瑞恵さん

まるみいず 薄井瑞恵

安心できる人と自然が、子ども本来の力を育む。

北九州市若松区の小さなおうち まるみいず

北九州市若松区の「小さなおうち まるみいず」

目指していること

はじめまして。小さな居場所「まるみいず」を運営している薄井瑞恵です。

まるみいずは、学校にも集団(放課後デイサービスなど)にもなじみにくい子どもたちが、安心して過ごせる小さな居場所です。

不登校や行き渋りの背景は、一人ひとり異なります。
集団がしんどい子、気持ちを言葉にするのが苦手な子、外に出るだけで精一杯の子もいます。

だからこそ、まず大切にしたいのは、何かをさせることではなく、安心してその場にいられることです。
まるみいずでは、その子のペースを尊重しながら、「ここなら大丈夫かもしれない」と感じられる時間を少しずつ積み重ねていきます。

大切にしていること

1

少人数であること

まるみいずは、1枠最大3名までの少人数で過ごす居場所です。
人が多い場では緊張しやすい子でも、落ち着いて過ごしやすい環境を大切にしています。

2

無理をさせないこと

最初から話すこと、活動に参加すること、頑張ることを求めません。
見るだけ、座るだけ、その場にいるだけでも大丈夫です。

3

その子にとっての小さな前進を大切にすること

学校に戻ることだけを急がず、まずは安心・回復・外に出られること・人と過ごせることなど、小さな変化を大切にします。

4

保護者の不安も一緒に受け止めること

子どものことを考えるほど、保護者の方も悩みや不安を抱えやすくなります。
まるみいずでは、子どもだけでなく、保護者の方の気持ちにも丁寧に向き合うことを大切にしています。

運営者について

まるみいずは、私が一人で運営している小さな居場所です。

これまで小学校教員として18年勤務し、うち7年は特別支援学級を担当してきました。
そのほか、幼稚園勤務なども経験し、園児から小学生までの子どもの育ちやつまずきに、現場で関わり続けています。

集団になじみにくい子、気持ちをうまく言えない子、頑張ろうとするほど苦しくなってしまう子を、これまで多く見てきました。
だからこそ、決まった形に当てはめるのではなく、その子の状態に合わせて関わることを大切にしています。

派手な支援ではなくても、安心して過ごせる時間の積み重ねが、子どもの回復の土台になると考えています。

PROFILE

薄井 瑞恵

小学校教員として18年勤務(うち特別支援学級7年)後、幼稚園勤務
小学校教諭・幼稚園教諭資格保有
福岡県認定子育て支援員

与論島の自然の中で育ち、子どもが安心して過ごせる環境の大切さを身近に感じてきました。若松の一軒家という環境を選んだのも、子どもが自然や暮らしの空気を感じながら、無理なく過ごせる場を大切にしたいと考えたからです。

最後に

まるみいずは、すぐに変わることや、すぐに元気になることを目指す場所ではありません。

まずは、安心していられること。
自分のままでいてよいと感じられること。
そして、少しずつでも「また来てもいいかもしれない」と思えること。

そんな小さな積み重ねを大切にしながら、子どもとご家庭にとって無理のない形で関わっていきたいと考えています。

COLLABORATION

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